RNA interference(RNAi)とは、二本鎖RNAを細胞に導入することによって、 その二本鎖RNAと相同な配列をもつ遺伝子の発現が特異的に抑えられる現象 である。この現象を利用すれば、ヒト、ショウジョウバエ、線虫など数多く の真核生物で任意の遺伝子を簡単にノックアウトできることから、RNAiは 遺伝子の機能をさぐる手法のひとつとして大きな注目を集めている。しかし ながら、その分子レベルでのメカニズムはまだ不明な点が多い。
本研究は、培養細胞系を用いた網羅的探索により、RNAiに関わる新規因子を 発見し、RNAiのメカニズムを明らかにしようとするものである。
本研究では、ショウジョウバエ由来の培養細胞(S2細胞)を用いて実験 を行った。
三菱生命研の上田龍博士との共同研究により、ショウジョウバエの個体 レベルでは、染色体の66A-66C領域が欠失した系統が野生型と比較してRNAi 活性が弱いことが見いだされている。その欠失領域にRNAiに関わる因子が 存在する可能性が高いと考えられるので、その領域に位置する69個の遺伝子 すべてを対象に培養細胞系でスクリーニングを行った。
まず、対象の遺伝子をS2細胞由来のcDNAから増幅し、両末端に付加した T7プロモーター配列を用いてin vitro RNA合成を行った(Fig. 1)。合成 したRNAは相補鎖どうしが自動的にアニーリングして二本鎖となる。これを 培養細胞に導入することにより対象の遺伝子をノックアウトし、2日後に RNAi活性が残っているか検証した。
培養細胞におけるRNAi活性の評価はluciferase assayで行った。すなわち、 luciferaseを標的にした二本鎖RNAを産生する細胞株(Fig. 2)にluciferase 発現ベクターを導入し、その二本鎖RNAによるRNAi効果をluciferase発現量 の減少という形で光学的に測定した。
現時点までのスクリーニングで、RNAiに関与している可能性がある遺伝子の 候補が3つ得られ、それらが真にRNAiに関与しているか解析中である。
得られた候補遺伝子がRNAiに関与していることが明らかになったら、その 具体的な機能について解析を進める。また、個体レベルの研究でRNAi活性を 増強する欠失系統も見いだされているので、その領域についても培養細胞系 でスクリーニングを行う予定である。
一方で、ゲノムデータベースよりRNAとの相互作用が推定されている遺伝子 約400種類を選定し、上記の方法で網羅的にスクリーニングを始めている。
両末端にT7 プロモーター配列を含むPCR産物を合成し、T7 RNAポリメラーゼ で転写させた。
転写されたluciferaseのIRが分子内でアニーリングしてdsRNAとなり、 RNAi活性を示す。