1999年度冬学期 細胞情報学

細胞情報学 試験   2000.2.4

以下の4問に答えよ。ただし、問題に記した字数は目安であって厳密に守る必要はない。

1.次の語句を簡単に(50−100字程度で)説明せよ。
 (a)MAPキナーゼ
 (b)PDGF(血小板由来増殖因子)
 (c)グルタミン酸受容体


2.7回膜貫通型受容体が伝える細胞内シグナル伝達を要約して、400字程度で説明せよ。


3.以下の文を読み、設問に答えよ。
 動物の体は、外見上ほぼ左右対称であるが、内臓には心臓や胃のように非対称のものもある。 つまり、動物には、前後、背腹、左右の3つの軸がある。 3つの軸形成の過程は古くから研究されているが、 ようやく最近になって、左右軸を形成するシステムが少しずつわかってきた。 その結果、左右決定の過程にも他の軸と同様に多くの遺伝子が関わっていること、 その中には、左右軸形成に特有ないくつかの遺伝子と、 他の発生・分化・形態形成にも働く多くの遺伝子があることがわかった。 これらが協調的に働くことによって、左右が決定され、 目に見える左右非対称の構造が作られるのである。 事の詳細は非常に複雑であるが、いくつかの因子と実験結果を以下に示す。
 (1)左右軸決定時期に体の左側だけに発現する遺伝子がある=lefty-1nodalなど。
 (2)lefty-1が欠損すると、nodalが左右両方で発現するようになり、左右軸が変化する。
 (3)EGF-CFCと云う遺伝子が欠損すると、nodal遺伝子産物が機能しなくなる。
 (4)nodal遺伝子産物は、ある種のアクチビン受容体(ActUB遺伝子産物)のリガンドとなる。
 (5)lefty-1nodalには、TGF(transforming growth factor)-β様のタンパク質がコードされている。
 (6)EGF-CFC遺伝子産物には、EGF様の領域とCysに富む領域があり、発現細胞の細胞膜上に存在している。

<問題>
(a)lefty-1遺伝子産物にはどのようなはたらきがあると考えられるか。
(b)上記の4つの遺伝子(lefty-1nodalEGF-CFCActUB)を、 発現した細胞でのみはたらくものと、他の細胞にもはたらきうるものとに分類せよ。
(c)アクチビン受容体の下流にあって遺伝子発現の調節を行う因子は何と呼ばれるか。
(d)上記の4つと(c)の答えの合わせて5つの遺伝子産物が体の左側でどのようにはたらくかを、図を描いて説明せよ。 また、必要ならば、他の因子を想定してもよい。


4.次の文を読み、設問に答えよ。
 多細胞動物は、環境に存在する無数とも思える化学物質を感知して、最終的な誘引・忌避などの行動をとる。 この外部感覚系は化学受容と総称され、嗅覚系と味覚系に大別される。 哺乳類の嗅覚系は対応しうる化学物質の広範さから免疫系に類されていたときもあるが、 実際の分子や細胞のシステムは大きく異なる。
 脊椎動物の嗅神経細胞は、1種類の嗅覚受容体(嗅物質を受容する受容体)を発現している。 嗅覚受容体をコードする遺伝子は、哺乳類では1000種類程度、魚類では100種類程度存在すると予想されている。 したがって、受容体から見た嗅神経細胞の種類は、脊椎動物では受容体をコードする遺伝子の数と基本的に同じである。 ところが、線虫(C.elegans)では、嗅神経細胞の種類はわずか10数種であり、 少数の細胞種によって広範な化学物質を感知している。 一方、線虫の嗅覚受容体をコードする遺伝子の数は脊椎動物に引けを取らない。
 こうした線虫と脊椎動物のシステムの差を、生物の単純さ、 例えば、最終的な行動(誘引や忌避)の単純さに帰着する理解の仕方は一見可能である。 しかし、魚類や両生類などの行動も、ヒトの目から見れば同じように単純であり、 この考えは必ずしも正当とは思えない。 むしろ、複雑な情報処理を行う段階が異なると考えることもできる。

<問題>
(a)下線部について。脊椎動物と線虫のそれぞれでは、 どのような過程(段階)で複雑な情報処理を行っていると考えることができるか、情報処理と合わせて議論しなさい。
(b)脊椎動物の嗅覚系には、普通の匂いを感じる嗅神経細胞のほかに、フェロモンを感知する鋤鼻嗅神経細胞がある。 普通の匂いを感じる場合とフェロモンを感じる場合とで、どのような差が必要であると考えられるか。 また、そのためには、感覚受容と認識(神経伝達)の過程においてどのような違いが生じていると考えられるか。


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